曳家とは?建物を移動する伝統工法

「曳家(ひきや)」という言葉をご存知ですか?
古くは「曳舞(ひきまい)」とも呼ばれた建物を解体せずに、そのままの状態で別の場所へ移動させる日本の伝統的な建築工法です。
建物をまるごとそのままお引越しする工法のことを曳家といいます。
主に、土地区画整理事業、歴史的建造物の維持保存、既存の建築物を別の場所へ移動する場合などに活用されます。
五月女建設では、長年の経験と確かな技術で、様々な建物の曳家工事を承っております。
[この目次]
概要
曳家工事は、一般的に以下の手順で行われます。
- 1. ジャッキ等を用いての建造物の上昇
- 2. 枕木、レール等を用いた移動ルートの設置
- 3. 建造物の移動、回転
曳家工事とは~
五月女建設Youtubeチャンネル
日本においては、東京中央郵便局、靖国神社鳥居、総理大臣公邸、弘前城天守などが過去に曳家を行っています。
五月女建設では、これまで国指定重要文化財である旧篠原邸や、国指定有形文化財の真岡高校記念館、作新学院校舎をはじめとして、
数多くの文化財や木造の一般住宅、鉄骨造倉庫、鉄筋コンクリート造の建築物、大谷石蔵、石塀、車庫、銅像、神社本殿、
神社の鳥居、鐘楼堂など、重量建築物から軽量建築物までを曳家してきました。
五月女建設の伝統と実績

曳家の用途:どんなときに建物を移動するの?

曳家(ひきや)の主な用途は、建物を解体せずにそのまま移動させることで、様々な目的を達成することです。
- 土地区画整理事業での活用
- 土地区画整理事業において、道路拡張や新しい都市計画に合わせて建物を移動させる必要がある場合に曳家が利用されます。
これにより、既存の建物を保存しながら都市開発を進めることができます。
- 土地区画整理事業において、道路拡張や新しい都市計画に合わせて建物を移動させる必要がある場合に曳家が利用されます。
- 歴史的建造物や文化財の保存
- 貴重な歴史的建造物や文化財を保存するために、元の場所から安全な場所へ移動させる際に曳家技術が活用されます。
また、土台や柱が腐食してしまった場合の復旧・交換作業にも曳家の技術が利用されます。
これにより、建物の価値を損なうことなく保護することが可能となります。
- 貴重な歴史的建造物や文化財を保存するために、元の場所から安全な場所へ移動させる際に曳家技術が活用されます。
- 日当たりの改善
- 建物の向きを変えることで日当たりを改善したい場合にも曳家が利用されます。
特に住宅や商業施設において、快適性や省エネルギー性の向上を目的として行われることがあります。
- 建物の向きを変えることで日当たりを改善したい場合にも曳家が利用されます。
- 敷地の有効利用
- 建物を移動して駐車場等を作るなど、既存建物を店舗利用への転用をする際に敷地を有効活用するための手段として曳家技術が用いられます。
過去には建物を上げて、一階部分を駐車場にした例もあります。これにより、限られた土地を最大限に活用することができます。
- 建物を移動して駐車場等を作るなど、既存建物を店舗利用への転用をする際に敷地を有効活用するための手段として曳家技術が用いられます。
- 都市再開発プロジェクト
- 大規模な都市再開発プロジェクトにおいて、歴史的価値のある建物や重要な構造物を保存しながら、新しい都市計画を実現するために曳家技術が使用されます。
- 災害復興や防災対策
- 液状化現象による地盤沈下や、台風・大雨による床下浸水・床上浸水、
地震による家の傾きなど、災害後の復興過程や、将来の災害に備えた防災対策として、
建物を安全な場所に移動させるために曳家が活用されることがあります。
- 液状化現象による地盤沈下や、台風・大雨による床下浸水・床上浸水、
曳家は、建物を解体せずに移動させることができるため、建築物の価値を保ちながら様々な都市計画や保存のニーズに対応することができます。
また、環境負荷の低減や資源の有効活用にも貢献する技術として、現代社会において重要な役割を果たしています。
曳家の歴史:いつからある技術?
曳家の起源:古代の知恵
曳家(ひきや)の起源は非常に古く、紀元前のエジプトやストーンヘンジの建設にまで遡ります。古代の人々は、大きな石を運ぶために「テコ」や「コロ」の原理を利用していました。

ストーンヘンジの建設

古代エジプト文明
5世紀〜7世紀:日本における「修羅」
日本でも古墳時代、大型の木製ソリ「修羅(しゅら)」が使われていました。大阪府藤井寺市の三ツ塚古墳からは、VないしY字型の形状をしたものが発掘されています。

戦国時代〜江戸時代:「算段師」の活躍
江戸時代、曳家業は「算段師(さんだんし)」と呼ばれる専門家によって発展しました。建物や巨樹など、あらゆる重量物を運ぶ彼らの技術が、現在の曳家の基礎となりました。
明治時代〜現代:技術の近代化
明治時代には油圧式ジャッキが導入され始め、現代ではミリ単位の調整が可能な電子制御システムへと進化しています。


レンドーローラー®

電子制御システム
日本の曳家の特徴:違いはあるの?
日本の曳家は、伝統を受け継ぎながら現代のニーズに合わせた7つの大きな特徴を持っています。
① 建物のそのまま移動
解体せずに移動するため、歴史的建造物の価値を損なうことなく保存・活用が可能です。
② ミリ単位の精密作業
最新機器により、建物への損傷を最小限に抑えながら安全に移動させます。
③ 多様な構造に対応
木造だけでなくRC造や鉄骨造など、あらゆる建物タイプに適用できます。
④ 環境・資源の保護
廃棄物を大幅に削減できるため、持続可能な建築工法として高く評価されています。
⑤ 都市計画への柔軟性
道路拡張や再開発など、建物を動かすことで都市計画に迅速に対応できます。
⑥ 高い経済性と実用性
解体・新築に比べ、時間とコストを大幅に節約できる場合があります。
曳家の費用:相場、値段が知りたい!
曳家工事にかかる費用は、建物の規模や構造、移動距離、地形などによって大きく異なります。
例えば、一般的には新築費用の4~7割程度とされていますが、具体的には以下のような費用が含まれます。
曳家に関連する費用の種類
- 解体処分費: 建物周りにある工事支障物(庭木、塀、カーポートなど)を解体・処分する費用です。
- 曳家工事費: 建物を移動させるための直接的な工賃です。詳細は下記の「要因」をご参照ください。
- 設備工事費:現在使用している電気・ガス・水道などの切断および復旧作業にかかる費用です。
- リフォーム工事費(必要な場合): 外壁の塗替え、水回りの入替え、内装工事、断熱リフォームなどが含まれます。
- 外構工事費: 撤去したお庭や外構の新設工事費用です。
- 建築確認申請料: 建築基準法に基づき、特殊な場合を除き申請費用が必要になります。
- 地盤調査・地盤改良費: 不等沈下を防ぐための費用です。状況により自治体が負担するケースもあります。
曳家工事に影響を与える要因
大きく重い建物ほど、必要な機材や人員が増え費用が高くなります。
距離が長いほど工期が延び、設備も増えるため費用が上昇します。
木造やRC造など構造の違いや、老朽化の程度も影響します。
地形や道路状況により、特別な準備が必要になる場合があります。
正確な費用把握には、専門業者による具体的な条件に基づいた見積もりが不可欠です。歴史的建造物の保存など目的によっても変動します。
「曳家の費用」をもっと詳しく!
曳家の工法:耐震・免震・家の傾き直し・古民家再生
その他にも曳家の技術を用いた工事があります。
その他
- 近年では、砂防ダムの移動、魚道の沈下修正、ビルの解体、橋梁の沈下修正、あしかがフラワーパークで有名な大藤の移動など、様々な工事に曳家の技術が活かされています。

あしかがフラワーパーク「奇蹟の大藤」の移植事例
曳家のデメリット:課題、業者選びのポイント
曳家工事において最も難しい部分は、以下のいくつかの要素に集約されます。
- 建物の構造保全
- 曳家工事では、建物全体を移動させる必要があるため、その過程で建物の構造を損なわないようにすることが最大の課題です。
特に、下腰工法における基礎の切断箇所の復旧作業や、揚げ家工における水平の維持、既存建物の沈下部分や水平歪みの修正作業は非常に繊細で、
建物の構造に悪影響を与えないよう細心の注意が必要です。
- 曳家工事では、建物全体を移動させる必要があるため、その過程で建物の構造を損なわないようにすることが最大の課題です。
- 重量分散と安定性の確保
- 建物を持ち上げ、移動させる際には、建物の重量を均等に分散させ、安定性を保つことが極めて重要です。
これには高度な技術と経験が必要とされ、ジャッキの配置や使用方法、施工管理方法に細心の注意を払う必要があります。
また特に業者によっては使用するジャッキの台数が少ないことで十分な重量分散ができずに建物にひび割れを起してしまうケースも見られますので、注意が必要です。
- 建物を持ち上げ、移動させる際には、建物の重量を均等に分散させ、安定性を保つことが極めて重要です。
- 精密な移動と位置調整
- 建物を目的地まで移動させる過程では、ミリ単位の精度で位置を調整する必要があります。
これには最新の測量技術と高度な操作技術が要求されます。
特に、大型の建造物や歴史的建造物の場合、わずかなずれも許されないため、極めて高い精度が求められます。
- 建物を目的地まで移動させる過程では、ミリ単位の精度で位置を調整する必要があります。
- 環境要因への対応
- 屋外で行われる工事であるため、風や雨などの気象条件、地盤の状態、周辺の建物や構造物との関係など、
様々な環境要因に対応しながら作業を進める必要があります。
特に雨の多い時期の曳家工事は地耐力の著しい低下への対応能力が問われることから工事の難易度が大きく左右されます。
- 屋外で行われる工事であるため、風や雨などの気象条件、地盤の状態、周辺の建物や構造物との関係など、
- 法規制への対応
- 曳家工事には様々な法規制が適用されるため、これらの規制に適合しながら工事を進めることも大きな課題となります。
特に、区画整理地域にある建築物、また歴史的建造物や文化財の場合、保存に関する厳しい規制に従う必要があります。
- 曳家工事には様々な法規制が適用されるため、これらの規制に適合しながら工事を進めることも大きな課題となります。
これらの難しい部分を克服するためには、高度な専門知識と豊富な経験、最新の技術と専用機器の活用が不可欠です。
なぜなら、曳家工事は、建築技術の粋を集めた極めて複雑な作業であり、その難しさゆえに、専門の技術者によって慎重に計画され、実行しなくてはいけません。
「曳家のデメリット・業者選び」についてもっと詳しく!
曳家工事の流れ
曳家工事に関しての準備が進み、業者をいくつかに絞ると以下のような流れで工事が進んでいきます。
-
現地調査: 曳家業者が現地を訪問し、建物の状態や周辺環境を調査します。
-
見積もり提出: 調査結果に基づいて、見積もりを提出します。
-
契約: 見積もり内容に納得したら、契約を締結します。
-
近隣挨拶: 工事前に、近隣住民へ挨拶を行います。
-
曳家工事: 建物をジャッキアップし、移動させます。
-
基礎工事: 新しい場所に基礎を築造します。
-
建物設置: 基礎に建物を設置します。
-
外構工事: 外構工事を行います。
-
完成: すべての工事が完了したら、引き渡しとなります。
この現地調査から完成までの間には土地・お金・様々な手続きや関係各者への連絡、協議などたくさんの課題を解決する必要がでてきます。
つまり、この一連の流れにおいてどんな業者に頼むかが曳家工事の成功を分けるいちばん重要な要素となってきます。
- サポートが充実しているか、こちらの意見をきちんと聞いてくれるか
- 遵法精神、品質確保の意識が強いか
- 技術、機材を十分に持っているか
など、しっかりと業者を見定めて「信頼」できる業者を探してくださいね。
「曳家工事の流れ」についてもっと詳しく!

曳家の五月女建設|施工事例
家屋移転

「道路拡張や区画整理があるのだが住み慣れた家をこのまま使いたい」「歴史的価値のある建物を残したい」
「新築ほどお金をかけずに家を移転したい」「建物を移動して敷地を有効に使いたい」「家族と過ごした大切な思い出のある家を壊したくない」等、
お客様の要望に応えるのが曳家工法です。
当社では移転時に基礎コンクリートを切り離して、新しい基礎コンクリートの上に建物を移設する「下腰工法」、
また建物と基礎コンクリートを共に移転する「基礎共工法」、神社仏閣や古民家、木造棟門など日本古来の建築物を移転する「腰付移動工法」など、
多彩かつ熟練の技術で曳家工事を行っています。
下腰工法の施工事例①|木造2階建店舗兼住宅
下腰工法の施工事例②|木造2階建住宅
基礎共工法の施工事例①|鉄筋コンクリート造2階建住宅
基礎共工法の施工事例②|木造2階建て住宅
家屋移転のポイント
- 思い出の残る家をそのまま残せる。
- 道路拡張、区画整理に伴う家の移転では補償金そのままでも満足の工事が行えます。
- 新規の住宅ローン等を払わずに今までの生活が維持できる。


曳家工~家が動く~
回転工~家が動く~
沈下修正工事(家の傾き直し)
軟弱地盤、地下水のくみ上げ、地震、液状化、盛土における転圧不足などによる地盤沈下・建物の不等沈下の修正を行います。
ジャッキを用いて、沈下部分の水平修復を行い、鋼管杭の圧入、耐圧版の作成等により、沈下防止を行います。
アンダーピニング工法の施工事例|木造二階建住宅
耐圧版工法(根継ぎ)の施工事例|古民家
沈下修正工事のポイント
- 建物、コンクリート基礎を壊すことなく、小規模工事によって水平修復を行える。
- 立て直し、基礎の打ち直しに比べ、大幅のコストダウンが見込める。
- 建物に住んだままの工事ができる。
嵩上げ工事
既存の建物や構造物を持ち上げて、その基礎や地盤を高くする工事です。
この工法は、特にゲリラ豪雨・大雨・洪水による床下浸水・床上浸水のリスクが高い地域で、
建物の基礎、もしくは土台を嵩上げして水没しない安心の家に改修工事します。
その他、土台や柱の腐食・虫食い部分の交換、基礎部分の耐震補強、構造の改造などの用途として用いられる工法です。
現在、嵩上げ工事は戸建て住宅・マンション・アパートなどの集合住宅・擁壁・ダム・堤防など、様々な建築物や工作物に利用される工法です。特に近年では、気候変動による豪雨の増加に伴い、住宅の浸水対策として再注目されています。


嵩上げ工事のポイント
- 新築や増改築と比較して低コストで施工できるため、経済的な負担が軽減される。
- 工事中も居住空間を維持できるため、仮住まいへの移動が不要。
- 湿気や虫の被害で傷んでしまった土台や柱を新しく入替え、構造を強化することができる。
歴史的建造物の移転・改修
国指定重要文化財旧篠原邸住宅や「NHK朝ドラあんぱん」の舞台となった有形文化財東武下小代駅駅舎を始めとして、歴史的・文化的価値のある建造物も曳家工法で移転・改修が可能です。身近なところでは、大谷石蔵や、土蔵、古民家などの公共の歴史的建造物も移転、改修工事を行っています。文化的財産やお客様の記憶に残る大切な財産も曳家工事で後世まで残すことができます。
【NHK朝ドラ あんぱんの舞台】曳家施工事例|旧東武鉄道下小代駅駅舎 有形文化財(建造物)
土台・柱の改修工事(根継ぎ)の施工事例|木造二階建長屋門
梁・柱の改修工事の施工事例|木造平屋建古民家
免震改修
新築の基礎に免震を組み込んだり、既存の住宅や歴史的建造物を、家族・家財・歴史を守る免震構造(レトロフィット工法)へ改修いたします。
免震工事は、建物と地面の間に装置を設置し、地震のエネルギーを吸収・減少させる技術です。揺れを直接伝えないことで、建物の損壊だけでなく家具の転倒や食器の破損も防ぎます。
特に歴史的建造物は、その価値ゆえに通常の耐震補強が難しい場合があります。しかし、曳家と免震を組み合わせれば、建物に負担をかけず、移転後の新たな基礎で安全に保存することが可能です。
主な免震装置
- アイソレータ:建物を支えつつ、水平に動いて揺れを逃がします。
- ダンパー:地震エネルギーを吸収し、揺れを素早く抑えます。
地震力を1/6~1/8に抑制するこの工法は、国立西洋美術館や旧首相公邸、鎌倉の大仏など、日本を代表する重要な構造物の地震対策として採用されています。
免震工事のポイント
- 地震の振動自体を抑制し、建物への衝撃を最小限にする。
- 家財道具など、室内の安全も同時に守ることができる。
- 曳家と合わせることで、壁を剥がさず既設建物にも装置を取り付け可能。
その他構造物の移転

建物だけでなく、記念碑や石塔などの石造物、塀や門や鳥居、樹木、送電線の鉄塔や外付きのエレベーターまで、様々なものを壊さずに移動(曳家)することができます。

倉庫の吊り上げ移動(吊舞工法)

石像(二宮金次郎像)の移動
その他構造物の移転のポイント
- 敷地内に新しい建物を建てる際、敷地の有効利用ができる。
- 工場内の機械配置を移動することで、新規の機械設置や導線の効率化ができる。
- 歴史的価値のある記念碑や構造物を壊さずに、そのままの姿で移動できる。



























