曳家工事と基礎の関係は?ベタ基礎から独立基礎・鉄筋のことまで曳家先生が徹底解説!
2024年10月10日|
教えて曳家先生! 第十話 ~絶対に損しない基礎のコツ~ 曳家先生が徹底解説!
「教えて曳家先生!~絶対に損しない○○のコツ~」では、曳家の専門業者だからこそ知っている絶対に損をさせないお得な情報、大切な情報について触れていきます。
曳家を検討されている方はぜひ読んで、絶対に損しない曳家と工事の後にも続く大切な生活に必要な情報を一緒に学んでいきましょう。
こんにちは曳家先生です。前回は、「絶対に損しない距離のコツ」についてお話ししました。今回は、建物の中でも大切な部位「基礎」についてのお話、「絶対に損しない基礎のコツ」についてお話しします。
このブログを読んでいる方はもうすでにご存知だと思いますが、曳家工事とは、建物をそのままの状態で移動させる工事です。古民家を移築したり、土地の有効活用のために建物を移動させたりするために利用されています。
曳家工事は、基礎の状態が重要です。基礎がしっかりしていないと、建物が傾いたり、倒れたりする恐れがあります。また曳家工事の最中も建物が破損するリスクもあります。そこで、今回は曳家工事の基礎のコツについて、分かりやすく解説します。
基礎の主な役割:
どんな建物にも基礎があります。そんな基礎にはどんな役割があるのでしょうか?
- 建物の重さを地盤に伝える
- 地震などの水平力に対抗する
- 不同沈下を防ぐ
基礎の種類
まず基礎の種類を知ることが大切です。お住まいの建物の図面があったら基礎の種類を確認してみましょう。
一般建築物でよく利用される基礎の種類を以下の4つにまとめました。
- ベタ基礎
ベタ基礎は、建物の床下全体を上部構造と同じような形でコンクリートで覆う構造で作られた基礎です。これにより、建物全体が面で支えられ、荷重が均等に分散されます。そのため地盤への負荷が小さいため、比較的不同沈下への耐性があり軟弱地盤でも選ばれることが多い基礎構造です。
最も一般的な基礎で、鉄筋やコンクリートなどのコストが上がる一方、基礎構造すべてが連続となっているため、特に地震時の耐震性が高く、湿気やシロアリからの影響を受けにくいという利点があります。 - 布基礎
布基礎は、断面が逆T型となるコンクリートを連続させた基礎です。建物面積に対して地面に接する底面積が少ない一方、鉄筋やコンクリートなど材料費のコストパフォーマンスに優れ、広く選ばれている基礎です。布基礎はコンクリート基礎のすべてが連続とならないため、強度、防湿性はベタ基礎に劣ります。そのため、併せて地盤改良工事や防湿工事などを用いることがあります。 - 独立基礎
独立基礎は、名前の通り、建物の柱の下に独立してコンクリートの基礎を配置した基礎です。一般に鉄筋コンクリート造の建物や大きな建築物に選ばれることが多く、荷重を集約して地盤に伝えるため、大きな面積で支える必要がありますが、その分地盤への負担が大きくなります。また独立基礎の間に地中梁(ちちゅうばり)を設け連続とすることで、その強度、耐久力を高めることがあります。 - その他の基礎
その他には軟弱地盤で基礎を支える杭基礎(鋼管杭、コンクリート杭など)や神社仏閣にある礎石(石の基礎)、最近では見ることも少なくなりましたが、大谷石基礎などもあります。
基礎の種類によって曳家工事の工法も変わります。適切な基礎構造とその特徴を把握することで適切な曳家工事を行うことができます。優れた技術を持つ曳家業者さんは基礎構造にも精通しているのでわからないことは質問してみてくださいね。
鉄筋コンクリートの材料とその特徴
現代ではその強度と耐久性から建築物の基礎には一般的に鉄筋コンクリートが採用されます。
その材料、鉄筋・コンクリートやそれらを組み合わせた鉄筋コンクリートの特徴について説明します
鉄筋の特徴
鉄筋は、直径10mm〜50mm程度の鉄でできた棒状の材料です
。主な特徴は以下の通りです:
- 引張力に強い: コンクリートの弱点である引張力を補強する役割を果たします。
- 圧縮力に弱い: 圧縮力がかかると座屈を起こす可能性があります。
- 錆びやすい: 錆びることで強度が低下する可能性があります。
- 高温に弱い: 500°Cで強度が半減し、1,000°Cでほぼ強度がなくなります。
コンクリートの特徴
コンクリートは、水、セメント、細骨材(砂)、粗骨材(砂利)、混和材料を混ぜ合わせて製造される材料です。
セメントは水と混ぜることで水和反応を起こし、硬化して強度を持つコンクリートを形成します。
。主な特徴は以下の通りです:
- 圧縮力に強い: 建物にかかる重量や外力による圧縮力に対して高い耐性を持ちます。
- 引張力に弱い: この弱点を鉄筋が補完します。
- 耐火性が高い: 不燃材料であり、火災時の延焼を防ぐ効果があります。
- 熱伝導率が低い: 火災による熱損失を抑える効果があります。
鉄筋コンクリートの特徴
鉄筋とコンクリートを組み合わせることで、以下のような優れた特性を持つ構造体が形成されます
- 高い耐震性: 地震の揺れによる力を分散させ、倒壊のリスクを低減します。
- 優れた耐久性: 鉄筋とコンクリートは共に劣化しにくく、長期間使用できます。
- 設計の自由度: 様々な形状の建物を建設することが可能です。
- メンテナンスの容易さ: 鉄筋が露出していないため、補修が比較的簡単です。
このように、鉄筋コンクリートは鉄筋とコンクリートの特性を相互に補完し合うことで、高い強度と耐久性を持つ構造体を実現しています。
現代社会にとって切っても切れない重要なものである鉄筋コンクリートですが、それはどのようにつくられるのでしょうか?
以下、コンクリート基礎の作られる過程を示します。
コンクリート基礎の施工方法
コンクリート基礎の施工にはいくつかの重要な工程があります。
- 地盤調査
建物を建てる前に地盤調査を行い、地耐力を確認します。軟弱な地盤の場合は改良工事が必要です。 - 測量・丁張
敷地周辺に基準となるベンチマークを設定し、境界杭から建物の位置・高さを測量し、目印となる丁張を設置します。 - 掘削工事
基礎を設置するために必要な深さまで土を掘り起こします。この際、機械への綿密な指示と正確な手元作業により掘削面を平らに整えることが重要です。 - 砕石敷き
掘削後、砕石を敷き詰めて、締固めをし、地盤を安定化させます。この作業は「地業」と呼ばれます。住宅では主に「C40-0」と言われる40mm~0mmまでの骨材が混じりあった材料を使用します。締固め作業は雨天に行うと、基礎砕石が軟弱となる場合があるため、天候も品質確保のために大切な条件となります。 - 捨てコンクリート
地盤を平らにし、作業しやすくするために捨てコンクリートを流します。この層は強度には直接関与しませんが、コンクリート床面に墨出しをすることで、後の背筋作業や型枠作業の施工精度を高める役割があります。 - 型枠・配筋作業
図面に沿って、捨てコンクリートの墨と丁張をもとに型枠の設置を行い、基礎の強度を高めるために鉄筋を配置します。これは非常に重要な工程であり、型枠においては延長、高さ、建入などの正確性が求められ、鉄筋においては主筋、配力筋、補強筋など適切な配置と間隔が求められます。また鉄筋の継手長さやコンクリートのかぶり厚も基準法での定めをクリアした形で配置しなければなりません。 - コンクリート打設
配筋が完了したら型枠内にコンクリートを流し込みます。流し込む際にはバイブレーターなどを用いて空気抜き、締固めなども行いながら均一に仕上げます。近年ではポンプ車を使うことが一般的で、シュートやホッパーを用いた打設に比べ、短期間で打設を完了することができるため、ワーカビリティの確保やそれにともなう出来形品質の向上に役立っています。 - 養生と型枠外し
コンクリートが固まった後、一定期間、湿潤状態で養生し、その後型枠を外します。平均気温が15℃以上において、普通コンクリート5日間、早強コンクリート3日間の養生期間中にコンクリートの強度が発現します。
以上が鉄筋コンクリート基礎を施工する重要な手順です。
それでは適切な曳家工事を行うために次は基礎のチェックポイントについて触れてみましょう。
鉄筋コンクリートの劣化要因と施工不良について
知ってた?以外に知らない鉄筋コンクリートの劣化要因とその対策
鉄筋コンクリートの劣化要因は多岐にわたりますが、主に以下の4つの要因が挙げられます。
- 中性化
中性化は、コンクリート内の水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応し、アルカリ性が低下する現象です。これにより、鉄筋を保護する不動態被膜が破壊され、鉄筋が腐食しやすくなります。結果として、ひび割れや剥離が発生し、構造物の耐久性が低下します。これを防ぐためには、コンクリートの表面を保護することが重要です。シラン系やけい酸塩系の含浸材を使用して水分や二酸化炭素の侵入を防ぎます。また、適切なかぶり厚さを確保し、設計段階で耐久性を考慮することも効果的です - 塩害
塩害は、コンクリート中に浸透した塩化物イオンによって引き起こされます。特に海岸近くや融雪剤を使用する地域では、塩分がコンクリートに浸透し、鉄筋の不動態被膜を破壊します。これにより鉄筋が腐食し、ひび割れや剥離を引き起こすことがあります。これに対抗するためには、表面保護工法や断面修復工法、脱塩工法などがあります。特に、電気防食工法は長期的な保護が期待できます - アルカリ骨材反応(ASR)
アルカリ骨材反応は、コンクリート中のアルカリ成分と骨材中のシリカ成分が反応し、膨張する現象です。この膨張はひび割れを引き起こし、特に拘束された構造物では深刻な影響を及ぼすことがあります。ASRは、反応性骨材とアルカリ成分が反応して膨張し、ひび割れを引き起こす現象です。低アルカリセメントの使用や、高炉スラグセメントなどの混和材を用いることが推奨されます。また、水分の侵入を防ぐために表面被覆工法やひび割れ注入工法も有効です - 凍害
凍害は、寒冷地で水分が凍結することによって発生します。凍結時に水分は約9%膨張し、この膨張によってコンクリート内部にひび割れが生じます。凍結と融解を繰り返すことで劣化が進行し、最終的には構造物の強度低下につながります。コンクリートの透水性を低下させるために、水セメント比を低く抑えたり、エントラップトエアー(気泡)を適切に管理したりします。表面から水分が侵入しないように保護層を設けることも重要です
これらの劣化要因は相互に関連しており、一つの要因が他の要因を助長することもあります。例えば、中性化によって鉄筋の腐食が進むと、その結果として塩害も悪化する可能性があります。また、施工不良や乾燥収縮も劣化を加速させる要因となります。これらの劣化要因を理解し、適切な対策を講じることが重要です。そして、鉄筋コンクリートの劣化対策は、構造物の耐久性を向上させ、長寿命化を図るために重要です。
主な施工不良
またこれらの劣化要因を促進する施工不良は次の通りです。
- ジャンカ(豆板)
ジャンカは、コンクリート打設時の締め固め不足や材料分離により発生します。- 粗骨材が露出した状態になる
- 鉄筋が密集した箇所や打ち込みにくい場所で生じやすい
- 強度低下や耐久性の問題を引き起こす
ジャンカは粗骨材の大きさやスランプの選択、バイブレーターを適度な時間と間隔で使用することにより防ぐことができます。
- コールドジョイント
コールドジョイントは、コンクリートを複数層に分けて打設する際に発生します。- 上層と下層が一体化せず、不連続面が生じる
- 構造的な弱点となり、ひび割れの原因になる
- 中性化や塩害の進行を早める
コールドジョイントは適切なレイタンス除去によって防ぎます。
- 表面気泡(あばた)
表面気泡は、コンクリート表面に空気が残って硬化したものです。- せき板に接する表面に発生
- 見た目の問題だけでなく、耐久性にも影響を与える可能性がある
あばたはバイブレーターを適切に用いると共に、タッピングによって防ぎます。
- 乾燥収縮ひび割れ
乾燥収縮ひび割れは、コンクリート内部の水分蒸発による体積減少で発生します。- コンクリートの引張強度が小さいため生じやすい
- 練り水が多い柔らかい生コンや、打設作業が不足すると発生しやすくなる
乾燥収縮ひび割れは適切な水セメント比の確保、AE剤の使用によって防ぎます。
- その他の施工不良
- レイタンス: コンクリート上面に形成される脆弱な薄層で、打継ぎ時の付着性を阻害する
- 砂すじ: セメントペーストが分離し、表面に細骨材が縞状に露出する現象
- 締固め不良: バイブレーターの使用不足による締固め不足
- 養生不良: 適切な湿潤状態の保持や温度制御の失敗による強度不足やひび割れの発生
これらの施工不良を防ぐためには、適切な配合設計、打設技術、締固め作業、養生管理が重要です。また、施工中の品質管理や定期的な点検も欠かせません。施工不良は構造物の長期的な性能に影響を与えるため、専門家の助言を受けながら慎重に対処することが推奨されます。
基礎のチェックポイント
あなたもできる。コンクリート基礎の簡単なチェックポイント
曳家工事を行う前には、基礎のチェックを行うことが大切です。チェックのポイントは、以下のとおりです。
- 図面との違いがないかどうか:
図面があったとしても、建物を建てた時の打合せで、実際の作業が違うにもかかわらず、図面の変更が行われていないことがあります。 - 基礎のひび割れや欠損がないかどうか:
床下換気口、人通口などコンクリート基礎の欠損部分には本来であれば、非連続となった鉄筋を補強するために補強鉄筋が配筋されます。その補強鉄筋がなかったり、建物が不同沈下を起こすことで、基礎にひび割れが起きることがあります。 - 基礎の鉄筋が腐食していないかどうか:
基礎のひび割れやコンクリートの剥離により基礎の鉄筋が空気に触れ、腐食することがあります。その多くサビの水垢のような形で視認することができます。 - 地盤に対し不同沈下していないかどうか:
様々な要因で地盤沈下が起きることがあります。基礎の不同沈下はそのひび割れや腐食にもつながり、建物の寿命を大幅に短くすることから早期の対応が必要です。
基礎に問題があると、曳家工事中に建物が傾いたり、建物が傷む恐れがあります。そのため、基礎のチェックは必ず自分で行うか、きちんとチェックを行う曳家業者に依頼しましょう。
基礎に問題が見つかった場合は?
それではもし鉄筋コンクリートの基礎に問題が見つかった場合は、どうしたらよいのでしょう?
もちろん、基礎の交換や補強工事を行う必要があります。
そして先ほど紹介した劣化要因対策の他に、曳家工事で基礎の交換を伴う姿曳移動(下腰)工法・腰付移動(上腰)工法の場合には、基礎の問題をまるごと解決することができると言えます。
基礎も一緒に移動をする基礎共工法の場合には補強工事を行う必要があるでしょう。例えば、ひび割れや欠損の補修・腐食した鉄筋の防食工事を行うことで、そのままの基礎でもより長く使用することができるようになります。
既存建物に不同沈下があった場合には、その建物の具体的な沈下量や地盤の状態、建物の改築履歴などを調べる必要があります。
もちろん曳家工事の際に沈下部分の修正も行うのですが、建物上部との関係も調整しながら修正工事を行わないと、外壁、内装、基礎の破損にもつながりかねません。
※曳家工法の種類については
・「教えて曳家先生! 第七話~絶対に損しない工法のコツ~」
ひび割れについては
・「教えて曳家先生! 第十一話 ~絶対に損しない ひび割れ 防止のコツ~」
を参照ください。
定期的な点検と維持管理
劣化状況を把握するためには定期的な点検が不可欠です。劣化度合いに応じた補修や補強計画を立てることで、早期発見・早期対応が可能になります。また、劣化因子の遮断や除去だけでなく、鉄筋腐食の進行抑制、施工不良の防止も考慮した維持管理が求められます。
これらの対策は、それぞれ異なるメカニズムに対応しており、適切な方法を選択することで鉄筋コンクリート構造物の耐久性と安全性を高めることができます。
曳家工事には、工事着工前から工事中、工事完了後と様々なリスクが伴います。これらのリスクからお客様の生命と財産を守るためには事前の準備が必要です。曳家工事を理解し、今お住まいの建物を理解することで、生命と財産を守ることができます。
ーーー
達成感を越える信頼の架け橋をつくっていく
このブログを10話以上も読んでいただき、誠にありがとうございます。多くの方に読んでいただけていること、そして、お客様の「大切な家と想い」を守るという同じ目標に向かって共に歩んでいけることを、心から嬉しく思います。
私たちにとって、お客様は単なる顧客ではありません。
共に「大切な家と共にそこにあるご家族想い出、未来を守る」という一つのプロジェクトを進める仲間だと考えています。
またお客様の想いを理解し、信頼関係を築くことで、お客様にとって最適なプランをご提案し、最高品質の仕事を提供することができると考えています。
曳家工事では枕木一本一本運んで組むにしても手で行いますし、基礎の下の地盤、機械の入らないところも人力で掘り進めます。膝立ちできないような狭い通路を約30kgのジャッキを抱えて屈みながら進んで設置することもあります。
ですので、曳家工事の現場の達成感は、その労力・それまでの心労に比例してとても大きなものになります。でもそれよりなにより嬉しいことはお客様へ安全に工事完了できたことを報告できる瞬間、お客様からの「お疲れ様」、「ありがとう」を頂ける瞬間です。
今後も、お客様のお悩み解決に役に立つ情報を発信し、お客様との信頼関係を築いていけるよう、ブログを更新していきます。これからも、末永くよろしくお願いいたします。
ーーー
「教えて曳家先生!~絶対に損しない○○のコツ~」では、曳家の専門業者だからこそ知っている絶対に損をさせないお得な情報、大切な情報について触れていきます。
曳家を検討されている方はぜひ読んで、絶対に損しない曳家と工事の後にも続く大切な生活に必要な情報を一緒に学んでいきましょう。
もし身近に信頼できる曳家さんがいない場合は日本曳家協会認定の曳家指導士、五月女がお答えします。ぜひ五月女建設のお問合せフォームにお悩みを曳家先生へのウェブ相談、もしくは五月女建設のお問合せフォームでご連絡ください。
あなたの身に寄り添った立場で法律面、施工面、費用面など持てる知識と経験の限り、誠心誠意お答えさせて頂き、あなたの「絶対損しない曳家工事」に協力させて頂きます。